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【ピクニックの森】那須高原より未来を拓く森の招待状。

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那須へ移住して見えてきたもの

那須岳の南側、なだらかな山麓に大きな森が広がる那須高原。
「ピクニックの森」はその中にあり、人が踏み入ることのできる場所として2019年春から少しずつ森を拓いてきた。始めたのは、2009年に東京から那須に移住した岩下礼成(ひろなり)さんと友希さん夫妻。そもそも那須に移住を決めたきっかけは何だったのだろうか。礼成さんに伺った。

岩下礼成さん。那須へ移住した当時を振り返る

「40代になるとこの先の生き方を考えはじめますよね。それで昔から憧れていた薪ストーブのある暮らしを求めて、いろんな地域を訪れました。その中で那須高原が自分のイメージに一番近かったんです。自然の豊かさと生活利便性のバランスもいいですし」

妻の友希さんは会社員を経て2000年よりヨガをはじめとするウェルネスのインストラクターとして独立。首都圏を飛び回りながらレッスンを受け持つ生活をしていた。だから心身の健康に携わるものとして、自然豊かな那須への移住にも前向きだった。

こうして那須に薪ストーブのある理想的な家を建てた岩下さん夫妻。礼成さんは引っ越し後も当時勤めていた東京の会社に、毎日那須から通い続けたという。しかし、次第に東京で過ごす時間が長い二重生活よりも、那須での時間を多くしていきたいと思うようになる。

奥さまの岩下友希さん。那須でもヨガ教室を開いている

一方で那須の住民としてたくさんの人と知り合ううちに、地域のニーズもだんだんと見えてきた。また東京から遊びに来る友人や同僚が、那須に何を求めているのかを目の当たりにしてきた。そうした経験が結果として「那須で仕事をつくる」ことのベースになっていく。

そして2017年、 那須から通勤した8年間を含め、約30年間勤めた東京の会社を退職する決意をした礼成さんは 「株式会社PICNIC」を立ち上げる。名前をピクニックとしたのは、自然の中で過ごす心地よい時間やワクワクする気持ちを喚起させる言葉だからだという。

那須街道沿いにあるお店「PICNIC」は毎週水曜日と木曜日のみオープンしている

那須での仕事として最初にスタートさせたのが、友希さんが調理を担当する玄米おむすびと発酵食のお惣菜屋さん「PICNIC」だ。
観光地の那須には美味しいレストランがたくさんある。だけど住民の目線で考えたときに、毎日食べたいと思えるお店が少ないと感じていた。そこで地元の食材を使い、日本古来の伝統食である発酵食料理を提供するレストランをつくりたかった。しかしそれには準備に時間が掛かるため、まずはすぐに始められるお惣菜屋さんをオープンして、お客さんの反応を見てみることにした。

「PICNIC」で販売しているお惣菜。美味しくて体にいいと評判だ

「お店を始めてみて分かったことですが、アレルギー体質のため、化学調味料を使ったコンビニやスーパーのお弁当を買えない方がけっこういるんです。『PICNIC』のお惣菜は旬の食材を使い、自分たちで作った醤油麹や塩麹、お味噌を使用しています。もちろんすべてがアレルギーフリーではないですが、裏に食品表示をしているので、お客さんが安心して選べるようになっています。だから、地元の方だけでなく観光客の方にも喜ばれています」

「PICNIC」が提供する発酵食のお惣菜に、確かなニーズがあることを実感した岩下さん夫妻。その確信は、今まさに始まろうとしている「ピクニックの森」が目指す「食べること」の発信へとつながっていく。

那須に人が集う森をつくること

2019年2月、礼成さんは那須高原にある約900坪(3,000㎡)の森を取得した。
那須で生活をするなかで、地域に何があれば人に喜ばれるのかを考えてきた。そして礼成さんなりに考えた末の答えが、人が訪れることのできる森をつくることだった。

「僕は那須の最大の魅力は森だと思うんです。だけど意外に森そのものをテーマにした遊び場や仕事が少ないと思ったんです。例えば新たな観光施設ができるとなると、多くの木が伐採されて森は施設の付帯的な存在になるでしょ。そうではなくて、森そのものを活かした場所をつくりたいと思ったんです」

森の構想を語る礼成さん

人の手があまり入っていない場所と、人が手を加えて利便性を整えた場所。この相反する2つの場所があるとしたら、できるだけ自然のままの状態にするのが理想だ。とはいえ、そこはテントサイトのあるキャンプ場とも違う。単に観光客が休日を楽しく過ごすための場所ではなく、森に集まる人どうしがつながり、交流できるようにしたい。そして入場料を支払わずとも、誰でもふらっと立ち寄って寛いだり遊んだりできる、公園のような森にしたかったという。

森の入口には、倒木を活用した「PICNIC」の看板が置かれている

こうして岩下さん夫妻が那須に住みながら抱きつづけていた構想を形にしたのが「ピクニックの森」だ。 まず第1回目として「森をひらく・森を愉しむ」というテーマでイベントを開催。首都圏や那須周辺地域から集まった一般参加者とともに、自分たちで森を拓いていった。森を快適な空間にするための作業として、下草刈りや倒木の片づけ、薪づくり。また、焚火をしながらのランチやハンモック体験、倒木で作ったシーソーなど、参加したみんなが自然そのものを利用した遊びを満喫した。

みんなで森の中を心地よい空間につくる。その作業も楽しい
楽しそうにハンモックに揺られる参加者のご家族
ランチタイムは友希さん手作りの玄米おにぎりが振舞われた

「地図とコンパスで宝探しオリエンテーリング」と題した2回目では、チームに分かれた参加者が地図とコンパスを頼りに森の中にあるスポットを探し当て、宝物やポイントを獲得していくゲーム形式のイベントを開催。ゲームを通じて、森の中にある木の実やキノコ、木の葉などが、自分の力で探し当てた宝物と感じる体験をした。

オリエンテーリングの専門家を招いての宝探し。はじめにルール説明を聞く
地図とコンパス片手にスポットをめぐる。置かれた指示によって宝物やポイントが獲得できる
森にある一番大きなキノコを探し出すというミッションに、みんな真剣

また第1回目と2回目を通して、イベントには「ピクニックの森」に欠かせない人が、講師として参加している。 長谷川英司さんと田中豊さんは、職業をアーボリストといい、樹木医の知識を持ち、高い木の剪定やメンテナンスを行う木の専門家だ。日本語で「樹護士」と訳される。木と向き合う仕事という意味では林業に近いが、多様な樹木の知識をもち、その木に最適な維持管理を施していくのがアーボリストの特徴だ。木を切ること、枝を落とすこともひとつの判断だが、その使命は木を健康に育てていくこと。だからアーボリストの仕事は「ピクニックの森」が目指すマインドに寄り添う考え方なのだ。

アーボリストの田中豊さん

第2回目のイベントでは宝探しのあと、アーボリストの指導によるツリークライミング体験が開かれた。 大人も子どももクライミングロープやハーネスなどの道具を使って、自分の力で木を垂直に上っていく。

シンボルツリーのようなケヤキの大木には、何本ものクライミングロープが吊り下げられた
最初にしっかりとレクチャーを受ける

事前に説明を聞いているから、動作が頭では分かっている。それでも実際やってみるとなかなか上れない。しばらくすると次第に皆コツを掴んでいき、スルスルと木の幹と垂直に上がっていく。頭と体を駆使しないと、自然を相手にした遊びは楽しむことができないのだ。

たくさんの子どもたちがツリークライミングに挑戦。どこか大人よりも飲み込みが早い気がする
高い所まで自力で上がっていく様子は、見ていても楽しい

親子での参加が多かったこのイベントで、アーボリストが考える木や森との向き合い方を、遊びを通して伝えていく。それがありのままの自然への興味や愛着を養っていくことになる。そして、将来的にはアーボリストのように木に携わる仕事を目指す子が出てくるかもしれない。

お子さんと一緒に参加するお母さんも多かった

「自然の中では楽しいこともあれば、虫に刺されたり痛い体験もします。もちろん想定される危険はなるべく除去するように管理していますが、森の中が完全に安全なわけではありません。自然の中にいるのだから怪我をすることもある。
だから怪我をしないための振舞い方を自分で考えて行動することが大事だと思います。 都会から来るご家族もそれを理解してくれる人が来ますし、自分もその姿勢を変えるつもりはありません」

3つのエリアに分かれる「ピクニックの森」のかたち

「ピクニックの森」はイベントの開催を皮切りに、まさしく始まったばかりだ。これから少しずつ森の中に施設を建て、理想の場所をつくる予定にしている。あくまでも森が主役だから、必要最低限の木を切るように心がけ、環境に配慮した場所にするつもりだ。 では具体的に「ピクニックの森」の構想とはどういうものなのだろうか。

「大きく分けて3つのエリアをつくりたいと思っています。ひとつは『食べること・からだを動かすことエリア』です。ピクニックで作っている発酵食を食べられるカフェレストランや、ヨガのレッスンスタジオがある施設をつくります。ここでは僕たちがサービスを提供するだけではありません。せっかく新鮮な食材が地域にあるのだから、自分たちで収穫し、調理して食べるまでの体験を一元化したいんです。だからレンタルキッチンとしても使えるようにしようと思います」

交流しながら食べることで、日常とは違う食への意識も生まれてくる

食べることと体を動かすことは、人が生きていくためのもっとも基本的なことだ。しかし多忙な生活の中で、当たり前のことが疎かになっている人も多い。日本人が昔から身近に食べてきた、体にやさしい発酵食を提供すること。また自ら収穫した野菜を調理して食べる体験や運動を通じて、基本的な生活の大切さを見直すきっかけにして欲しい。そんな岩下さん夫妻の思いが込められている。観光客が多く訪れ、食の生産地でもある那須ならその役割を担うことが可能だろう。

採れたての野菜や手作りのジャムを食べるのも楽しい

「2つ目の『学ぶこと・働くことエリア』は、単にテナントが入るということではなく、コワーキングスペースとして人が集まって働きながら、新しい価値を生み出すエリアです。また、気になる職業への生きた情報や経験をシェアできる学びの場所にしたいです。 たとえばパン屋になるための本当に役立つ知識やノウハウをパン職人から教えてもらうなど、 新しい仕事を目指すきっかけを得られる場所にしたいと思っています」

子どもだけでなく、大人も新たな仕事を目指すきっかけを掴めるかも

アイディアの原点には、子どもがさまざまな職業を模擬体験できる“キッザニア”の大人版をつくりたいという礼成さんの思いがある。

都市部で働いていた会社員時代、「自分はこのままでいいのだろうか」と思い悩む後輩たちをたくさん見てきた。今とは違う生き方を模索する人たちが少なくないなか、働くということにもうひとつの選択肢を示してあげたいと思った。それを肌で感じることができる場所が「学ぶこと・働くことエリア」なのだろう。

森から放出されるフィトンチットが脳を活性化し、たくさんの気づきを生み出すだろう

那須には岩下さん夫妻のようにさまざまな経歴をもちながら、移住して新しい仕事を始めた人たちが多く住んでいる。
そんな人たちと「ピクニックの森」で交流をもつことで、新たな仕事の足掛かりを掴み、少しずつ実践していくことが可能になるかもしれない。

そして最後のエリアが「住むこと・暮らすことエリア」だ。このエリアには人が住めるアパートがつくられ、薪ストーブを中心に森の中で暮らすことをリアルに体験する場所になる予定だ。

「薪ストーブというのは単なる暖房器具ではなく、調理器具や照明器具にもなる素晴らしいものだと思います。この薪ストーブを中心に人が暮らす場所をつくりたいと思います。アパートにしたのは自分で家を建てなくても、まずは森の中で暮らし始めることができるからです」

可能な限り森の木を活用した生活を目指す

薪ストーブは那須高原を象徴する暖房設備だ。燃料となる薪は森の中から調達し、自給的な暮らしを実践する。販売されている薪束を購入したり、チェーンソーで伐採するのは簡単だが、まずは自然の中から拾った枝を燃せる形に自分で切ることを目指したい。それが自然と人間の本来的な共存関係ではないのかと礼成さんは感じている。

小枝を集めてつくった、題して「昔の家」。森にはたくさんの資源が落ちている

“自然と共に暮らすコミュニティ”を掲げる「ピクニックの森」は、これら3つのエリアで構成される。

「食の安全と健康」「仕事との向き合い方」「暮らし方の多様性」
礼成さんはこれら現代人にとって多くの人が関心をもつテーマを、この森に集約させようとしている。生活のあらゆるシーンで多拠点化が進む中、訪れる人が自身の生活を根本的に問い直してみることにつながっていくのではないだろうか。

「ピクニックの森」が那須の未来に描くもの

どこかの地方へ田舎暮らしを検討している人がいるとしたら、まず知りたいのは生きた地域の情報であり、先輩移住者の声だろう。
その目的を端的にいえば、「そこに住んだら自分と家族が幸せに暮らせるかどうか」を計るためではないだろうか。

「ピクニックの森」は田舎暮らしに興味のある人にとって、とても魅力的に感じるコミュニティだ。 開催されたイベントからも分かるように、首都圏から来た人と那須に住んでいる人が、ごく自然なバランスで集まってくる。

みんな揃って記念撮影。ピクニックの森のコミュニティがいよいよ幕を開けた

しかも岩下さん夫妻の元に集まる地域の人は、農業女子や雑貨屋さんなど自ら生業をつくる魅力的な人が多い。だから一緒に森の中で遊ぶ体験をしながら、自然に本音の会話ができる。さらに交流を深めて仲良くなれば、「ときどき那須の友人に会いに行く」というスタンスが生まれる。今の生活拠点とは別に、もうひとつ自分たちの居場所ができるわけだ。

このように観光で遊びに来る人と移住する人の間には、多様な地域との関わり方があるが、実はそのきっかけをつくる場は意外と少ない。しかし「ピクニックの森」はそこを埋める存在になることができる。そしてコワーキングスペースや居住スペースをつくり、那須にもう1歩踏み込もうとする人の受け皿にもなっていく。

現在、取得している森はこれから「食べること・からだを動かすことエリア」になる予定で、残り2つのエリアは隣接する森を取得していくことになる。ウェルネススタジオなど、予定している施設の建設費用も必要になってくる。そこで、礼成さんは資金調達のために募集株式を発行、現在は出資者の2次募集を受け付けている。そしてピクニックの森を整備する一方で、構想に関心をもつ人に事業プランの説明に赴く日々を送っている。

やりたいことを実現するためにお金を集める方法は、他にもクラウドファンディングがある。しかし礼成さんが株式による出資を選択したのには、明確な理由がある。

「クラウドファンディングは目標額を達成してリターンを受け取ったら、そこでプロジェクトとの関係が終わってしまいます。だけど僕がつくりたいのはコミュニティなので、支援をいただいてからがスタートです。出資いただいたお金はお預かりしたものですから、関係がずっと切れません。株主の方には活動の経過を報告していきますし、期待されている方に応えられるように努力しようと思っています」

では、出資者を募って「ピクニックの森」を実現したいと思う根本的な理由は何処からくるのだろう。最後に礼成さんから聞いた言葉は、すっと腹に落ちるものだった。

「生活費とピクニックの森を維持管理していくための事業収益は必要ですが、なにもたくさんお金を稼ぎたいと思って始めるわけではありません。そうではなくて、ここが那須の財産と言われるような場所にしたいんです。そして将来的には次世代の若者を育てて、ピクニックの森を引き継いでもらいたいんですよ」

確かに“自然と共に暮らすコミュニティ”がワンジェネレーションで終わるものではないと考えるのが自然だろう。礼成さんは未来の那須が、少しでも理想的な姿になっていくことを見据え、コミュニティを育てようと考えている。

豊かな自然を有する大地は、長い年月という尺度から俯瞰して見れば、人が一時的に使わせてもらっているものだ。たとえ今、そこが誰かの私有地であっても、持続的ではないやり方で、人が自由に手を加えてもいいのだろうか。少なくとも地域の魅力が増すような共生の形を選択するべきではないか。

誰でも立ち寄れる公園のような森にしたいという礼成さんの思いは、ある種の公益性をまとった自然に対する価値観の共有だ。
心と体の健やかさを感じる森に地域の人が積極的に関わり、そこに誇りをもつことは、那須の地域力を押し上げていくことにつながるだろう。そして、ひいてはそれが地域外の人にとっても魅力的な場所に映るに違いない。

【PICNIC】
場所:栃木県那須郡那須町高久甲2888-4
営業時間:8:00~13:00
営業日:水・木
連絡先:090-9387-5452(岩下)
HP:www.picnic-nasu.com/
Facebook:www.facebook.com/picnic2017/
メール:picnicnasu@gmail.com

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