板室温泉にある旅館さんが、本格的なワーケーションの受け入れを始めるとの情報を聞きつけ、取材に行ってまいりました。
前編に引き続き、板室の魅力を探っていきます。
幸乃湯温泉の社長で、ワーケーションプランを推進する黒磯観光協会の会長、
荻原正寿さんにお話しを伺いました。
マガラ:今回、どのような思いでワーケーション事業を進めていこうとお考えですか。
荻原会長:板室温泉は湯治場としての長い歴史があります。湯治のお客様は連泊をされますから、これからワーケーションで利用されるお客様にも、その蓄積をご提供できるのではないかと思っています。
マガラ:それは、1泊だけ宿泊される観光のお客様とは、また違う対応が考えられるということですか。
荻原会長:そうですね。湯治場ですから、10日から15日くらい泊まる方もいらっしゃいます。
昔でいえば、作家さんが長期滞在をしながら作家活動をしたりと、まさに宿で仕事をしてきたわけです。
ですから、毎日料理のメニューが変わったり、チェックアウトの時間を変更するということが考えられますね。お客様が滞在中につくる時間と空間に、いかに寄り添えるかということが、ワーケーションの基本だと思っています。
マガラ:なるほど。ところで板室温泉の特徴でもある綱の湯は、どのようにして生まれたんでしょうか。
荻原会長: もともとは板室温泉に1号源泉という、自噴泉(じふんせん)があったんです。時間の経過により自噴泉内の圧が減少し、渇水しました。そんななか利用する方々に肩まで浸かり楽しんでいただくため掘り進めた結果、ゆぶねを満たす深さまでたどり着きました。1号源泉のぬるめの湯はゆっくり2~3時間の入浴があたりまえの長湯風呂。当時の湯守りの閃きにより、安心安全の入浴と考案されたのが綱の湯です。
マガラ:それは面白いですね。
荻原会長:首まで浸かると体重の負荷がなくなりますので、神経の圧迫もなくなり、歩くのが困難な方でも自力歩行ができるようになります。湯のなかで綱につかまりながらのストレッチをしたり、歩行を繰り返すことで、健康の改善をはかっていただく。人によって違いはありますが、それがまさに湯治の入り方ですね。
マガラ:板室温泉が杖いらずの湯と呼ばれるのは、そうした理由があるんですね。
ワーケーションに来るお客さんにとっても、日ごろの体の疲れが取れ、健康になりそうです。
荻原会長:ええ。脳が安らぐためには、あまり熱くないお湯にゆっくり浸かるほうがいいんです。
そこでリフレッシュして、仕事に活かしていただく。そういう温泉であれば、ワーケーションにも向いているんだろうと、私は思っています。
マガラ:板室温泉のよさって、何だと思いますか。
荻原会長:やはり観光地化されていない、静かな湯治場ということでしょうか。
宿としても、お客様が家庭に帰ったような環境を大切にしていますので、いい意味で深く携わろうとしません。
昔の湯治場というのは基本的に自炊でしたから、ご飯を食べる時間も人それぞれ違う。
だから、お客様が宿で過ごす時間が解放されている、というのが当たり前だったんです。
そういう文化が根付いていますから、お客様と一定の距離をきちっと保って接することが、板室らしさですね。
マガラ:たしかにそうですね。連泊していたら、ある程度ほっといてほしいかもしれません。
最後に、これからワーケーションで板室温泉を利用する方に向けて、お伝えしたいことはありますか。
荻原会長:ワーケーションのお客様に最低限必要なものとして、お部屋での快適なネット環境を準備してまいりました。また板室温泉全域でも、野外でワーケーション的な過ごし方ができるように、ネットインフラを整える取り組みを進めているところです。
というのも、新しい発想やひらめきを生み出すのは、自然のなかで感覚を養う必要もあると思うからです。ですから、そういうワーケーションのあり方を目指したいと考えています。
設備というのはさまざまなご意見を聞いていけば、導入は可能なんですよ。ただ、そこで満足せずに、その上にいかないといけないと思います。豊かな自然のなかで、その人の能力が活性化して、有意義に仕事ができる環境をつくりたい。これからも皆さまのご意見を伺いながら頑張っていきたいと思っています。
マガラ:今回はありがとうございました。
高い志しをもってワーケーションに取り組もうとする、心意気。
お客さんに寄り添い、自由な空間を提供しようとする、姿勢。
昔は収穫期を終えた農家の人々が、疲れをいやしに板室温泉を訪れるのが、一番の楽しみだったといいます。これからの働き方が模索されるなか、板室温泉が今を生きる人に向け、あらたに動き出すのを感じました。
滞在中のリフレッシュ
板室温泉街ぶらぶら歩き
板室温泉で気持ちのいい朝を迎えた2日目。ワーケーションでの滞在中に立ち寄りたい場所を、訪ね歩こうと思います。
まず最初に向かったのが、「板室温泉 大黒屋」。保養とアートの宿として、館内に作家さんの作品展示スペース「大黒屋サロン」が併設されています。
板室街道をアートで盛り上げるART369の最終地点ともいうべき大黒屋さん。オーナーの室井さんは、いまや世界的な評価を受ける「もの派」の作家、菅 木志雄(すがきしお)さんの作家活動を長く支えてきました。大黒屋から5分ほど歩いたところには、これまで菅さんが制作した作品を保管、展示する「菅 木志雄 倉庫美術館」があり、多くの作品に触れることができます。
さて、引き続き板室の温泉街をぶらぶらと歩きます。
荻原会長がおっしゃるとおり、観光地化されていない静かな温泉街。紅葉が美しい雄大な山々に囲まれていて、落ち着いて過ごしたい人には、居心地のいい場所だと感じました。ちょっとレトロな雰囲気も自分好み。
那珂川支流の河原沿いを奥まで進むと、大正8年に建てられた、加登屋旅館本館があります。木でできた客室の欄干がかわいらしい木造3階建ての本館は、国の登録有形文化財に指定されているそう。多くの湯治客を迎え入れてきた、板室温泉の歴史をしのばせる風情を感じさせてくれます。
加登屋旅館の向かいには、これまた大黒屋さんの「しえんギャラリー」があります。こうして板室街道沿いに、アート作品に触れるスポットが点々と配置されているところはさすがです。レトロからいきなりモダンな空間へと誘われ、4人の作家さんの作品を鑑賞することができました。
そして、最後に板室温泉の一番奥にある板室温泉神社へと足を運びます。
板室温泉を訪れた人が、不要になった杖を奉納して帰っていったという板室温泉神社。
そんな板室温泉の歴史にならい、わたしも最後に参拝しようと思い立ったわけです。
おっ、山道の入口に杖が用意されているではありませんか。これをお借りして、石段を上がります。
U字の坂道を上がった先の境内は、見事な紅葉が色づいていました。ここまで登ってきてよかった。
拝殿の前で杖を置き、温泉の効能に感謝して手を合わせます。湯治客とは違い、たった一日の滞在でしたが、幸乃湯の温泉にじっくりと浸かり、すっかり腰が軽くなりました。ありがとうございました!
人でにぎわう日常から離れ、ゆっくりとした時間が流れる温泉地で、自分と向き合う。
そんなワーケションを体験しに、ぜひ板室温泉を訪れてみてくださいね!
「奥那須温泉大正村 幸乃湯温泉」
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*尚、るるぶ(https://www.rurubu.travel/)でも、プランのご予約は可能です。
【奥那須大正村 幸乃湯温泉】
場所:栃木県那須塩原市百村3536-1
TEL:0287-69-1126
URL:http://www.satinoyu-onsen.com/
黒磯観光協会
オフィシャルサイト:https://www.kuroiso-kankou.org/