いつも茶臼岳に見守られているタッキーです。
先日、那須高原にある「那須平成の森」へ行ってきました。 季節は秋。美しい紅葉のなかをガイドさんと一緒に山歩きした模様をお届けします。
目次
かつて御用邸用地だった「那須平成の森」
フィールドセンターは、「那須平成の森」を訪れる人の拠点施設。今回、施設のスタッフでインタープリターの小西さんに案内をしていただきます。インタープリターとは自然ガイドを指す職種名で、自然と人との仲介役となって案内してくれる方のこと。那須の自然を教えてもらいながら散策できるとあって、とても楽しみにしていたのです。
さて、出発する前に「那須平成の森」についての説明を小西さんからお話しいただきました。
「那須平成の森は2019年で開園9年目になる国立公園です。敷地面積560ヘクタールで、東京ドーム120個分の広さがあります」
東京ドーム120個分の広さがどのくらいなのか、具体的に想像できない自分。とにかく、めっちゃ広いということか!
「園内は高い所で標高1,400m、茶臼岳のロープウェイ乗降場の近くにまで達します。逆に低い所では標高600mまで下り、縦長の敷地になっています。そしてこの森の中心拠点施設であるフィールドセンターは標高1,000mの場所にあります」
まさに園内の真ん中にあるのがフィールドセンターということですね。カワイイ布地のマップが分かりやすいです。それにしても、今では誰でも入ることができる平成の森ですが、以前は御用邸用地だったため一般の人は入れなかったのがこの場所。
「平成の森がある場所は今から90年ほど前、当時皇太子殿下であった昭和天皇がご成婚後に御用邸用地として設置されました。それから月日が経って平成になり、現在の上皇陛下が『ぜひこの豊かな自然を維持しつつ、国民の皆さんに触れあっていただいてはどうですか』というお考えから、約半分の敷地が『那須平成の森』として一部開放されたものです。陛下のお言葉もありますし、国立公園なので、できるだけそのままの自然を保つようにしています」
はぁ~、なるほど。いま僕たちがいる場所は上皇陛下の御厚意により散策することが可能になったのですね!ありがたみを感じます。
さて。それでは実際に森に行ってみたいと思います。
準備はいいかー!おー!
那須の秋
森の黄葉・紅葉が眩しいぞ!
引き続き小西さんに解説をいただきます。
「平成の森は3つのエリアによって構成されています。まず標高を上に上がっていく『ふれあいの森』は、来場者が自由に散策することができる森です。一番奥にある駒止の滝まで回ると、1周2時間ほどで歩けるコースになっています」
なんとGWには1日500人くらいの来場者が訪れるそう。ひぇー、500って、すごい数。
「一方、道路を挟んで標高の低い森の方へ下っていくエリアが『学びの森』で、ガイドウォーク専用エリアになっています。当日の受付も含め予約制なので、1日多くても30名くらいの人が森に入るコースです」
普段は一般の人が自由に立ち入ることができないのが「学びの森」。事前に予約しておいたナスモ取材班は、今回この「学びの森」を散策します。さっそく小西さんにフェンス扉の鍵を開けていただき、森の中へ。
「おじゃましまーす」
少し小雨模様だけど、しんと静まり返った森の中。 ミズナラやカエデ、ブナなど多様な木々が自生していて、彩り鮮やかな紅葉がとてもキレイ。なかでも黄色に色づくミズナラの木が一番多いので、森の印象が黄色になります。そこに散りばめられたモミジの赤が映え、カラフルな紅葉が楽しめます。やっぱりこの時期に来てよかった!
「この2つの森に加え、もうひとつ調査のために関係者しか入れないエリアがあります。そこは年間でも数十人しか立ち入りません。つまり平成の森は、たくさん人が入る所と少し人が入る所、そしてほとんど人が入らない所の3つに分かれていて、それぞれ人が利用する頻度によって、自然環境にどんな違いが生まれるのか観察しています」
なるほどぉ。そこは自然を相手にしたお仕事。目的は壮大でありながら、地道な作業の積み重ねが必要なんですねぇ、と感心。ちなみに現在までに分かっている環境の変化はあったのでしょうか。
「そうですね、たくさん人が歩く場所にはもともと生えていなかった植物も見られています。つまり外から人を介して種が運ばれたり、道によって風通しがよくなり運ばれるということもあるようですね」
「へぇ、そうなんですね。ところで話は変わりますが、実際にクマって出るんですか?」
「6月と7月にツキノワグマを見たというお客さんがいました。しかし ツキノワグマ は基本臆病な生き物なので、わざわざ音のする危険な方へ向かっていくということは考えにくいです。だからクマ鈴や声を出して気配をまわりに伝えることで遭遇する可能性を低くすることができます。それよりも、最近は蜂が出てまして、、」
「えっ、蜂ですか」
実はクマよりも蜂の方が怖い自分。攻撃されたら、絶対に逃げられない自信がある。
「以前、オオスズメバチが偵察に来て、顔の近くを旋回されたことがあります」
「うゎ~、ホントですか。そんなときはどうするんですか」
「ひたすら無になります。もしむやみに手で払ったりしたら、自分だけでなく他の人も刺される可能性があります。だからとにかく無になります」
「無、ですか」
「はい、地蔵になります」
「地蔵(笑)になるんですね」
森の中には人間にとって危険な生き物がいます。
しかし、彼らの棲み処に立ち入っているのは、われわれ人間のほう。だから危害を加えないよ、という態度で接することがとっても大事なのです。
自然をつぶさに観察し
生態系が守られている森
「学びの森」は自由散策路とは違い、案内看板もなければ歩きやすいように道も整備されていません。ガイドさんがいなかったら道に迷ってしまいそうな森の中です。逆に言えばより手付かずに近い自然を感じることができるというわけ。
普通に散策しているだけでは見落としてしまう植物の特徴を、丁寧に教えてくれる小西さん。同じ種類の木でも多様な葉の形や色、大きさがあることが分かります。
「森にはヤマツツジやシロヤシオなど、ツツジの木も自生しています。あそこにあるツツジを見てください。病気のため一か所に細かい枝がたくさん生えています。可哀そうだから切ってあげてという方がいますが、ヤマネなどの小動物にとってはあそこが天然の巣になります。どの立場から見るかによって、いいか悪いかは変わります」
自然そのままの状態を保つということは、森の生態系にできるだけ人が介入しないということ。あくまでも自然の状態に任せているんですね。
丸太が掛けられた沢に差し掛かったところであたりを見回すと、少しだけ霧が発生していました。紅葉の木々と相まって幻想的な雰囲気をつくり出しています。濡れた丸太で滑らないように、カニカニ歩きで沢を渡るご一行。
今回のコースの折り返し地点を過ぎ、もうすぐゴールのフィールドセンターに着くという所まで来ました。 すると、ちょっと離れた場所に白い布で四角く囲われたものがいくつか森の中に置かれているのを発見。あれは一体?
「あの囲いの中にドングリがいくつ落ちるか、年ごとに数えています。その結果、今年は去年よりも約3倍ドングリが落ちていることが分かりました。だから、もしかしたらクマが町まで降りずにこっちでご飯を食べてくれるかもしれないですね」
そう。那須は去年クマが町へ降りてきて、目撃情報が相次ぎました。しかし小西さんによると、実りの時期になってからはそれが落ち着いてきたそうです。 そうか、クマも生きるために必死なんだなぁと感じる取材班。豊作や不作というのは、てっきり人が食べる農作物だけのことだと思ってました。でも当たり前ながら、自然界のあらゆるものが毎年同じではないのです。
インタープリターの方からお話しを伺っていると、動植物と人は生命という地平で対等なんだと気づかされます。自然から離れた場所にずっといると、人は自然界の頂点にいるような錯覚にとらわれがち。でもそれはたぶん、違う。
むしろ森の中で、動植物は人が思いもつかない工夫を凝らして生きているようです。今回、ここでご紹介した以外にも、小西さんからたくさん興味深いお話しを聞くことができました。 その内容はぜひご自身で「那須平成の森」に足を運び、聞いてみてください!
那須平成の森フィールドセンター
【場所】栃木県那須郡那須町高久丙3254
【開園時間】9:00~16:30(5、8、10月のみ 9:00~17:00)
【休園日】水曜日(祝日の場合はその翌日/GW、お盆、年末年始は無休)
【HP】https://nasuheisei-f.jp/
【メール】info@nasuheisei-f.jp