月の満ち欠けに寄り添うものづくり【満月化粧水 月子】

黄金色に輝く夜の満月

那須の歴史を見つめてきた土地「神土(コウト)」

那須の芦野地区に、神土(コウト)と呼ばれる一角があります。

ここは、かつて那須与一で有名な那須七家のひとつ、芦野氏が平安末期に歴史に登場し、最初に居館とした場所です。

那須の東部に位置する里山、芦野地区

小さなお堀に囲まれた、東西約100メートルのスクエアな居館跡は、那須町の史跡に指定されています。明治に近くの健武山湯泉神社に合祀されてからは、地元の人たちが畑として利用してきました。

地名にもなっている、芦野氏の居館跡。別名神土と呼ばれる

この歴史ある特別な場所で、ヘチマの栽培をしているのは、那須ブランドに認定されるこだわりのヘチマ水「満月化粧水 月子」を生産・販売する、株式会社サクネス代表の澤野典子さん。

今回、澤野さんがどのような思いでヘチマ水をつくることになったのか。お話しを伺ってきました。

人も自然の一部であるという気づき

澤野さんのご出身は福岡県。若い頃から海外への憧れがあった澤野さんは、東京で海外とのやり取りを行う財務の仕事に就き、多忙な日々を過ごしてきました。

株式会社サクネス代表の澤野典子さん

20代の後半に一度福岡に帰郷するものの、写真家をしているご主人との結婚を期に、ふたたび東京に戻ることに。

以来、東京を拠点にアフリカで写真撮影をするご主人に同行し、アフリカ各地をめぐる生活がはじまります。

家族で過ごした南アフリカ。広大な花園にて

「96年からは息子2人を連れ、家族4人で1年の3分の1を南アフリカで過ごし、残りを東京で過ごすという生活を、7年間送ってきました。家族で行ったり来たり、大移動だったんです(笑)」

アフリカの小さな村で子ども2人を抱えて暮らしていた澤野さん。あるとき岩の割れ目に咲く、バビアナという一輪の花に心を奪われたそう。

厳しい大地に咲く花と出会い、自然観も変化した

「厳しい環境でも、花は自分らしく咲いている。だから、生きているものすべてが自分らしく輝けるはずだと思いました」

「人も自然の一部である」という、アフリカでの気づきを大切にしている澤野さん。

自然豊かな場所で子育てをするため那須へ

2001年には、アフリカで過ごした日々のように、あるがままの自然の中で生活をしたいと思い、東京から家族で那須へ移住。

自然と向き合い、そのリズムにしたがって生きようという思いが、生命を相手にするものづくりへの眼差しに、受け継がれていきます。

昔から日本人が使ってきたものをつないでいく

那須に移住してから、地元の人と交流することの多くなった澤野さん。美しい田園風景が広がる里山、芦野地区をたびたび訪れていました。

田園風景が広がる芦野

「農家さんに会うと、毎日お日様にあたっているのに、年配になられても肌がツヤツヤしててきれいなんですよ。聞けば、皆さんヘチマ水を採って、自分のために使っているそうなんです。あぁ、やっぱり昔から使われているものって、いいんだなぁって」

芦野で開かれる田植祭り

ヘチマ水は昔から日本人が使ってきた、天然の化粧水。古くは室町時代から「美人水」として使われはじめ、江戸時代には「花の露」や「江戸の水」、明治に入ると「キレー水」という名で売られてきたそうです。

ヘチマ水は実ではなく、茎から採水する

ヘチマ水は、ルシオサイドと呼ばれるサポニンが肌本来の増殖機能を高め、ターンオーバー(新陳代謝)を促すことが分かっています。その効用に気づき、古来からヘチマ水を肌につけてきたのは、日本文化独自のものです。

農家さんのおかげで里山の自然が保たれていると感じていた

ちょうど子育てがひと段落し、那須でなにか仕事をつくりたいと思っていた澤野さん。このことをきっかけに、会社を立ち上げてヘチマ水を商品化したいと考えるようになったといいます。

ふだんから那須の自然の恵みを商品化してみたいと考えていたそう

「とくべつ美容関係に興味があったわけではなかったんです。ただ、主婦目線で日頃からなぜ良いと思うものが世の中にもっと流通しないんだろうか?と、思うことはありました」

黄色い花を咲かせるヘチマの収穫期は秋

最初はほんの思いつきだった、ヘチマ水の商品化というアイディア。県産業振興センターのサポートをはじめ、化粧品開発のアドバイザーなど、いろんな人との出会いがあり、トントン拍子に商品化に向けて事業が動き出していきます。

満月の日の昼間に茎を切り、採水容器をセットする

ヘチマ水は土から生えているヘチマの茎を切ると、ポタポタと落ちてくる水を、一昼夜かけて採水したもの。そして澤野さんは1年に1回だけ、秋の満月の日に採水します。天候にも左右され、手間のかかる方法をあえて行うのは、なぜなのでしょうか。

ヘチマ水は満月のなか茎から落ち続け、翌日に回収される

「昔から、農家さんは満月の日に採っていたようです。植物は満月の日にたくさん水を吸い上げます。これは私たち人間や動物も同じ。(注:満月は生命が水分を蓄える力が強まり、新月は排出に向かうと言われています)
ヘチマも満月の日にいっぱい水を蓄えるので、私はそのときが一番いいものが採れると思っているんですね」

新月から数えて15日目が満月。月子のヘチマ水を採る日

月の満ち欠けによって変化する、私たちのからだ。地球上で生きる生命すべてが、その影響を受けています。

月のめぐりに合わせた採水法は、限られた数しか生産できません。それでも確かなものを届けたいとの思いで、ヘチマ水の生産をはじめた澤野さん。

月の恵みを感じるデザインの化粧水「月子」が完成

こうして会社を起業してから3年、ヘチマ栽培を地元の農家さんに手伝ってもらい、2010年に那須町でつくられたヘチマ水「満月化粧水 月子」が完成。商品化が実現しました。

ヘチマ水と人に支えられた震災

月子の販売へ順調に動き出したかにみえた翌年の2011年。東日本大震災により、那須町では、放射能汚染された土壌から基準値を超える農作物が出て、出荷停止に見舞われました。土から生まれたヘチマも当然、その影響を受けているはずです。

震災により、土壌汚染の被害を受けた那須町

「あぁ、これはもうダメだなと思いましたね。化粧品というハードルの高いものに手を出したけれど、自分の身の丈を超えたことをやっちゃったので、やめなさいということなのかなぁと」

震災で心が折れかけたと、当時を振り返る澤野さん

こうして一時は月子の生産をあきらめることを考えた澤野さん。

確認のため、11年の秋に収穫したヘチマ水を検査所に持ち込み、放射能検査をしてみると、なぜか放射性物質の数値が検出されませんでした。

非常時のさなかも、たくましく育ったヘチマ

ヘチマがもつ植物としての力が作用しているのか、科学的な根拠はわかりません。

月子の生産は完全にストップしましたが、翌年も、その翌年もヘチマ水の数値はゼロを示していました。

そんななか、いろいろな人からヘチマ水に対して前向きな声を聞くようになったといいます。

若者や自然農をしている人など、多くの人がヘチマ水に関心をよせてくれた

「月子の生産をやめたあとも、お客さんが月子をずっと使い続けてくれていて、評判がよかったんです。那須で月子を扱うお店さんとか、いろんな方からもったいないよって言われて。なんだかやめられなくなっちゃったんです(笑)」

神土は芦野の田園に囲まれた気持ちのいい場所

応援してくれる周囲からの声に背中を押される形で、ヘチマ水の生産の再開を決心した澤野さん。震災から2年後の13年、地域の人の紹介で、芦野にある共同畑の一角を借りることになりました。その場所が神土(コウト)だったのです。

月のめぐりと大地の力で生まれるヘチマの恵み

日本では昔から農事暦というものがあり、四季の細かい変化に合わせて農作業を行うことが慣例だったといいます。そして月子のヘチマは、太陽暦のカレンダーに合わせるのではなく、自然が教えてくれることに耳を傾けながら栽培。種まきから採水まで、すべての農作業を月のタイミングに合わせて行っています。

神土周辺の環境も整備する澤野さん。ヘチマの栽培が再開された

「それが一番自然だなって思うんです。だって気候も自然も毎年同じではなく、変わるじゃないですか。カレンダーどおりにいかないことの方が多いわけですから、自然をよく観察するのが大切だと思います」

種まきのようす

神土(コウト)の畑で栽培するヘチマは、完全無農薬、無肥料の自然農法でつくられています。

初年度から土本来の力を高める努力を重ねてきた結果、土壌微生物多様性・活性値で最高水準の評価を獲得。良質な作物ができる畑に育っていきました。

自然農は大地のもつ力を最大限活かす、自然の循環に沿った農法

良質な土で育ったヘチマは、中秋の名月に月光を浴びながら採水されたあと、実や葉も一緒に畑の土にもどし、土壌の肥料になります。ただ、せっかく育った実や葉を使えないことが、もったいないと感じていた澤野さん。

満月の日は、大地も明るく照らされる

2016年からは、減圧低温抽出方法で水や化学物質を使用することなしに、実と葉の部分からもヘチマエキスを抽出。茎から採水されたヘチマ水に加えて、葉と実から出たヘチマエキスもブレンドした月子が完成。大切に育てたヘチマをすべて無駄なく使い切ることに成功しました。

採水作業のようす

こうして特別な大地で育ったヘチマ水は、8つの無添加処方を徹底。赤ちゃんでも使える、肌にやさしい化粧水になります。

ヘチマ水のろ過も人の手で行われる

「私たちがふだん使うものって、どうやって作られたか、ということがすごく大事だと思うんです。
大地と植物がもつ力を最大限に活かし、そこに人間がほんの少しお手伝いをする。それが理想かなと思います」

月子を使っているお客さんの口コミでユーザーが広がっているそう

スキンケアーをすべて月子で完結したいというユーザーの声を受け、2020年に「多機能満月ジェル」と「美容液満月マスク」の販売を開始。「多機能満月ジェル」はひとつで乳液・美容液・マッサージクリーム・保湿クリームのはたらきをカバーできます。

多機能満月ジェルは水分とともに油分も補いながら肌をサポート、少量でのびのよい使い心地が好評

「美容液満月マスク」は化粧水の開発で大切にしてきた原料へのこだわりをベースに、バラの花水や樹皮エキスを配合した美容液を染み込ませた保湿マスク。新月から満月へ向かう時期に、肌の調子に合わせて1、2回の使用を提案しています。

那須高原の「星野リゾート リゾナーレ那須」でも販売

こうしてラインナップされた「月子 スキンケアシリーズ」は、地元那須の一流ホテルや旅館をはじめ、全国のお店にて販売されるように。また名品を紹介する本、「Japan Brand Collection 2021」で栃木の化粧品として唯一掲載されました。

自然のリズムに従い、少しずつ自分が良いと思うものを形にしてきた澤野さん。ご自身の中では、化粧品をつくっているという意識は少ないそう。むしろ「人は自然の一部」という、ずっと抱き続けてきた思いを、月子を通して考えるきっかけにしてほしいと思っているそうです。

月のめぐりに目を向ける生活時間を過ごしたい

「月子はお客さまから、親しみを込めて月子さんって呼ばれているんです(笑)月子さんが家にいることで、今日は満月だねって会話したり。自分のテンポで過ごす時間の大切さを、感じられる存在であってほしいんです」

月子が作られる現場をオープンにしていきたいそう

満月の採水する日には、遠方からも月子を愛用するお客さんが、畑の作業を手伝いに来るといいます。月子が良質な化粧水であることはもちろん、澤野さんのものづくりに対する考え方にも、共感の輪が広がっているのです。

那須の大地で生まれた満月化粧水 月子。お手にとってみてはいかがですか。

(※本記事は株式会社サクネスの提供でお送りしました)

【株式会社サクネス】
本社所在地:栃木県那須郡那須町豊原甲1023-9
連絡先:TEL 0287-72-7369/FAX 03-6256-8969
HP:https://tsukico.jp/
(※上記オフィシャルHPよりご購入いただけます)

この記事を書いた人

タッキー

那須コーヒーパルキ店主。さいたま市出身。 2016年那須町に移住。自家焙煎のコーヒー店を営業し、那須を取材する圏外ライターとしても活動。那須のフリーマガジン「森の子」の企画・編集。森での自給的暮らし、音楽活動、登山など。

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