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高原の醸造所でつくられる
おいしくて美容と健康にもいい地ビール
那須高原を流れる那珂川沿いに、地元をはじめ、多くの観光客にも親しまれているビール醸造所があります。
東北自動車道「那須IC」から車で1分、那須らしいユニークな地ビールを生産している那須高原ビールさん。
1996年にオープンし、今年で25周年を迎えた同代表の小山田孝司さん。特注家具をつくる家に生まれ、小さい頃からよく父に連れられて、那須連山を訪れていたといいます。そして那須の山々のなかでも、とくに印象に残っていたのが、深山(みやま)でした。
「自分が小中学生の頃は、深山によく雪が降ったんですよ。どうして深山だけこんなに白い雪がかかるんだろうと思っていました。当時は夏まで雪が残っていたんですよね」
幼少期から実家にあるカンナやノコギリなどを使い、ものづくりをしていた小山田さん。当時から抱いていた、「自分にしかできないものづくりをしたい」という思いが、深山の雪解け水を使った地ビールづくりにつながっていきます。
「ビールづくりは味が繊細なので、ごまかしが効かないです。だからおいしさを見極める味覚が大事だと思います」
那須のおいしいビールをつくりたい。小山田さんの原体験である、深山からの清らかな雪解け水を使った地ビールは「完全無ろ過」にて瓶詰めされるため、よりビール酵母のうま味や香りを楽しめるビールができ上がります。
ここでいう「ろ過」とは、アルコールと炭酸ガスをつくるビール酵母を、熟成後に取り除き、過発酵でビールの味が変わるのをふせぐために行います。一般的なビールの生産では、安定した味の品質を保つために必要な行程です。
一方、多くのビール酵母が残されている「無ろ過」では、生きた酵母が発酵を続けているため、冷蔵して温度管理をする必要があります。そのぶん酵母由来の豊かなコクや、華やかでフルーティな味わいを楽しむことができるのです。
「なにも引き算しない、要冷蔵のエキスが入った完全無ろ過のビールは、純然たる生ビールです。ジュースでいうと、果汁100%のフレッシュジュースのようなもの。だから酔いはするけど、二日酔いしないんですね。栄養のバランスが抜群なのが、地ビールのすごいところです」
生きた酵母は、不足しがちな栄養素がたっぷりと含まれているため、美容や健康へのプラス効果が期待できる、嬉しいはたらきも。
ビール酵母に豊富に含まれる核酸は、細胞の新陳代謝を促進して老化をふせぎ、美肌効果があります。また、高血圧を予防するミネラルや肝機能を回復させる17種のビタミン、抗酸化作用のあるポリフェノールなどの栄養素も含まれています。
まさに健康ドリンクのような地ビールは、那須高原ビールの規模の醸造所だからこそつくれるのかもしれません。
そして那須高原ビールをオープンした翌年、週刊現代で約80種類のビールが出品される、ビールの誌上コンテストが開催。大学の醸造学部の教授やビアテイスターなど3名が、部門別にベスト3を選ぶという企画において、9部門中4つ、那須高原ビールが選出。
いまでは、全世界から約2600名のブルワー(醸造する職人)が参加する「インターナショナル・ビアカップ」や「アジア・ビアカップ」などにビールを出品、国際的なコンペでも数々の賞を受賞するなど、那須から世界へ羽ばたく地ビールへと成長をつづけています。
皇室御用達の「愛」と
数々の受賞歴をもつ地ビールたち
那須高原ビールの醸造所でつくられているビールは、併設の販売所ですべて購入することができます。(※季節限定品あり)ここでいくつか那須高原ビールのラインナップをご紹介します。
愛
敬宮愛子(としのみやあいこ)さまのお印である、五葉ツツジがデザインされたビール。五葉ツツジが群生し、御用邸のある那須とのゆかりを感じる一品。喉ごしがよく、スッキリとした味わい。
ヴァイツェン
ドイツ、バイエルン地方特産のビール。原料に小麦をつかうため「小麦ビール」とも呼ばれている。濃厚な味わいで、バナナのようなフルーティな味と香りが特徴。「2001年 インターナショナル・ビアカップ」銅賞を受賞。
イングリッシュエール
イギリスの伝統的な淡色ビール。ホップのフルーティな香りと苦味がバランスよく味わえる。「2013年 インターナショナル・ビアカップ」金賞をはじめ、数々の賞を受賞した定番商品。
スコティッシュエール
スコットランド伝統の褐色のビール。ホップの苦みや香りを抑えつつ、焦がした麦芽のカラメル香や穏やかな甘みを効かせた、芳醇なコクや香りが楽しめる。
そのほかにも那須高原産のとちおとめを使用し、甘酸っぱさと香りが女性に人気の「いちごエール」。那須高原で生産したハーブを使い醸造した、上品な香りと気品がある「ベルジャンホワイト」など、那須の農産物とコラボしたユニークな季節限定商品を取りそろえています。
それぞれに個性的なラインナップのなかで、とくに那須らしい商品の「愛」はどのように誕生したのでしょうか。
「2001年に敬宮愛子さまがお生まれになり、敬愛という言葉が含まれた本当にすばらしいお名前だと感銘を受けました。それでわたしたちも愛子さまにちなんだビールをつくろうということになりました」
愛子さまのやさしいイメージの味にしようと考えた小山田さん。レシピをブルワーと試行錯誤しながら考え、やさしい味のソフトラガービールが完成。そして販売開始から1ヶ月半、皇太子ご夫妻(現・天皇皇后両陛下)のお目にとまり、宮内庁から直接注文が来たといいます。
「驚いてしまったのは、ご夫妻から『おいしかったです。宜しくお伝えください』とのお言葉を係官の方を通じて頂戴しまして。当時は愛子さまが大人になられたら飲んでいただきたいな、という思いはありましたが、本当にありがたいことでした」
こうして皇室御用達となった「愛」は、皇室ゆかりの地である、那須を象徴するビールとなります。
2021年の今年、成年皇族となられた愛子さま。次は御本人が「愛」をお飲みになっていただきたいと思わずにはいられない、エピソードです。
熟成して楽しむヴィンテージビール
「ナインテールドフォックス」とは?
那須に伝わる「九尾の狐」にちなんで名付けられた高級ビールの「ナインテールドフォックス」。年月を重ねるごとに味の深みが増すヴィンテージビールという、世界初の試みで熟成されたビールで、1999年から販売を開始しました。
「以前はよくビールの鮮度をうたう商品が人気でした。ならばと、逆に古くなったほうがおいしくなるビールをつくろうと思い、長期熟成に耐えられるつくり方というのを開発しました」
熟成させるには、通常のビールよりも麦芽を多く使い、アルコール度数は11%と高め。
ただしアルコール度数が高いとビール酵母が発酵しないため、砂糖を添加して発酵をうながす製造法もあります。
しかし同商品は独自技術によって4つのビール原材料「麦芽、水、ホップ、酵母」のみでつくることにこだわります。
熟成が進むと角がとれて、香りは甘く一体感が生まれ、ワインを思わせる味わい。色にも深みが出てきます。
こうして誕生した「ナインテールドフォックス」は、ドイツやアメリカなど海外のコンテストでも高い評価を獲得。
さらに、小山田さんが開発した「ナインテールドフォックス」をきっかけとして、世界最大規模の品評会「ワールドビアカップ」でも熟成部門が創設、2016年には金賞を受賞しています。
コロナ禍による酒類提供規制が出荷に響くなか、今年は自家栽培でオーガニックの二条大麦を使ったノンアルコールビールを開発した小山田さん。
自分にしかできないものづくりはつづきます。
【那須高原ビール】
所在地:栃木県那須郡那須町大字高久甲3986
営業時間:ショップ 10:30~19:00/レストラン 11:00~19:00(OS 18:45)
定休日:水
連絡先:0287-62-8958
HP:https://www.nasukohgenbeer.co.jp/