レジャー

どうぶつ王国でみた!知られざる動物たちの世界【那須どうぶつ王国-後編-】

スナネコ

生態を知ることで、動物の見方も変わる

前編(ホッキョクオオカミ)に引き続き、那須どうぶつ王国のスタッフ、ぶちさんと園内をめぐります。 訪れたのは保全の森。日本固有種の保護や保全を知ることのできる施設です。

保全の森はツシマヤマネコやライチョウなど、日本固有種の保護の取り組みを知ることができる

なかでも興味深いのが、ライチョウの展示エリア。ノルウェーやロシアが生息地のスバールバルライチョウと、国の特別天然記念物で、絶滅危惧種にもなっている、二ホンライチョウが分かれて展示されています。

ノルウェーなど北欧やロシアに生息する、スバールバルライチョウ。白い羽で覆われている

こちらで飼育を担当している、荒川さんにお話しを聞くことができました。

タッキー:スバールバルライチョウと二ホンライチョウがいますが、どのような違いがありますか。

荒川さん:一番の違いは体の大きさですね。二ホンライチョウは成鳥になっても400から500グラムくらいです。一方、スバールバルライチョウはもっと大きくて、800グラムくらいになります。

飼育員の荒川さんに、ライチョウの飼育についてお話を伺う

タッキー:だいぶ違いますね。スバールバルライチョウは体が真っ白なのに対して、二ホンライチョウは茶色の羽が混じっていますが。

荒川さん:体の羽の色は種の違いではなく、管理の仕方の違いなんです。スバールバルライチョウは、展示スペースを一年中冬の気候に再現していますので、ずっと白い羽で覆われています。逆に二ホンライチョウは繁殖のために、展示スペースを自然の気候にしていますから、春から夏にかけて羽が生え替わるのです。

二ホンライチョウは展示スペースが自然の気候なので、季節に応じて毛が生え変わる

タッキー:なるほど。二ホンライチョウだけ繁殖させているということですね。

荒川さん:そうですね。二ホンライチョウは長野県や富山県の高山に生息していますが、その数は約2000羽弱しかいないといわれています。近年、飼育されているライチョウの数が増えていますので、次の段階としては、動物園で育てたライチョウを自然に還すことです。

絶滅危惧種の二ホンライチョウは、園内で繁殖が試みられている。人工飼育と自然飼育に分かれている

荒川さん:いま中央アルプスにはメスが1羽しかいなくて、無精卵しか生まない状態になっています。
今年取り組んだのは、どうぶつ王国の有精卵を持っていき、メスにあたためてもらって、ヒナをふ化させることをしました。 ただ、それは野生の猿に襲われて育ちませんでしたが、これからも活動を継続していきます。

タッキー:地道な作業ですね。

保護動物の繁殖について、知らないことがばかりで興味深い

荒川さん:そうですね。どうぶつ王国では希少種を守るために、飼育技術や動物の生理学、行動学を見定めて、野生の環境に応用できるように取り組んでいるところです。

タッキー:そもそも動物園にこうした役割があることを、よく知りませんでした。

荒川さん:「域外保全」といって、動物本来の生息域の外に保護し、飼育して増やしていくというのが動物園の責務であり、存在意義だといえると思います。

タッキー:勉強になりました。ありがとうございました。

お昼寝中のジャガー、ルナちゃん

那須どうぶつ王国では、ほかにもツシマヤマネコや、キルギスに生息するユキヒョウなど、絶滅危惧種を保全したり、支援する活動を積極的に行っています。

どうぶつ王国の注目株!
愛されキャラのネコたち

保全の森とアジアの森では、今年から公開され、来場者の人気を集めているスナネコがいます。北アフリカや中東の砂漠地帯に生息する、世界最小級の野生ネコです。その愛らしい姿から、砂漠の天使と呼ばれているそうです。

タッキー:大きな耳と、横に幅広い顔がかわいいですね~。人気なのが分かります。

ぶちさん:あそこにいるのが、オスのシャリフ。アラビア語で「気高い」という意味です。そして「美しい」を意味する、メスのジャミール。相性がよかったのか、すぐに繁殖に成功して、長女のアミーラが誕生しました。その後も3頭の女の子が生まれています。

母親のジャミールと子どもたち

タッキー:名前はどのように決まったんですか?

ぶちさん:シャリフとジャミールは飼育員が決めました。一方、アミーラは募集で一番多かった名前で決まったんですが、約500人くらいが名づけ親になっています。

タッキー:500人も名前が被るって、なんかすごい(笑) うん?「決してペットとして飼いたいと思わないでください」と書かれていますね。

アジアの森の展示場には、今年の4月に生まれたアミーラと7月に生まれた妹が同居中

ぶちさん:はい。スナネコは顔に似合わず、牙が鋭くて気性が荒いネコです。人になつかないと言われています。それでも可愛らしいので、ペット需要で密猟が行われる心配があります。そうなると、生息地から姿を消して、絶滅につながる可能性が出てきてしまいます。

タッキー:それだと、どうぶつ王国が進めている保護や繁殖活動と真逆の結果になりますよね。

ぶちさん:そうですね。ですからスナネコはガラス越しに成長を見守っていただきたいです。

こちらは中央アジアに生息する、マヌルネコのボル。普段からこの渋い表情

たしかに、かわいくて癒される動物ほど、肌でふれあいたくなるもの。しかし野生の生き物は、彼らが過ごしやすい環境を用意する必要があります。それは動物園にしかできないことかもしれません。

飼育員の方もスナネコが人に慣れて、繁殖行動が伴わなくならないよう、必要最低限の関わりに留めているそう。野生の世界の領域にできるだけ立ち入らずに、動物たちの成長を見守る。その姿勢が、次の世代に命をつなげていくことになります。

スゴ過ぎる! オットセイの美技

次に向かったのが、屋外にあるアクアステージ。約200名が着席できる広い会場で、オットセイのショーを楽しむことができます。
ぶちさんに言われるがまま、客席の一番後方に陣取るナスモ取材班。しばらくしてショーがスタートしました。

芸達者のスーザン。飼育員さんとの息もぴったりだ

現れたのは、オットセイのスーザン。頭がよく運動神経抜群の王国のエース。

飼育員さんの合図に合わせて、水中からものすごい跳躍で空中に飛び出したり、ポリタンクを鼻の一点で支えて運んだり。スーザンの優れたバランス感覚と身体能力に、会場から驚きの拍手があがります。 それにしても、なんて賢いんだろう。

途中、スーザンの仲間たちも登場して、会場を和ませてくれた

最後に、お客さんがショーに参加する時間。客席から飛ばした輪投げを、水中からスーザンがジャンプしてキャッチします。飼育員さんが参加者を挙手で求めます。

ぶちさん:タッキーさん、見せ場です!ぜひやってください。

タッキー:えぇ!だってこの距離だよ。ムリムリ。

ぶちさん:大丈夫ですよ。ほら、今です!手を上げて。

愛嬌たっぷりのスーザン。体操選手のようなこのバランス感覚を見よ!

モノを投げるスポーツが全般的に苦手なワタクシ。フリスビーですら、前方ではなく、真横に飛ばしたことが何度あったことか。見つからないようにしぶしぶ手を上げる自分。心で「当たるな」とつぶやきながら。 しかし、まんまと指名されてしまうのでした。

ぶちさんに勧められるまま、投げ輪を投げることに

投げ輪を頭上にかかげて揺らすと、かしこいスーザンが自分の存在を見つけてくれます。
そして、前方のお客の後頭部に輪が直撃しないことを祈りながらの、1投目。

やっぱりというべきか、投げた輪は水槽の壁に当たってしまい、失敗。会場から残念のため息。
やばい。成功するまで終わんないぞ、コレ。

自信のなさが手に伝わり、フラフラしながら飛んでいく投げ輪。1投目は失敗

そして。会場が注目するなか、投げた2投目が前方へ一直線に飛んでいき、それに反応したスーザンが飛翔!

見事にその首に輪が入っていったのは、奇跡としかいいようがない! というか、スーザンが天才すぎる!

スーザンが水面からジャンプし、見事にキャッチ。お見事!

ノーコンの筆者が2投目で成功させた、奇跡の瞬間がコレだ!

1度失敗してから、2度目に成功するという、まるで演出のような展開に胸をなでおろす筆者。 とにかく、オットセイの素晴らしいパフォーマンスを堪能して、会場をあとにしました。

出口でお見送りをしてくれる、マール。ありがとう!

動物園としてのあり方

今回の取材の最後に、ぶちさんに動物園の取り組みについて、お話しを聞きました。

タッキー:今日はいろんな意味で楽しめました。ありがとうございました。

ぶちさん:よかったです。動物の能力をしっかりお客さんに見てもらうことで、その生態や環境にも目を向けてもらえるのかなと思います。鳥にしても、山の奥から飛んできたほうが迫力があるじゃないですか。
鳥は飛ぶ生き物ですし、広げたときの羽根が美しいので、そこも見ていただきたいです。

客席前方の山からさまざまな鳥が飛んでくる、人気のバードショー。ハクトウワシは翼を広げると2mにもなる

タッキー:たしかに!王国のバードショーはほんと、泣きそうになりました。自分が子どものとき、檻の外から眺めていた動物園とは、だいぶ違いますよね。

ぶちさん:動物福祉の観点から「環境エンリッチメント」という言葉があるんです。動物の生息地域に似せた環境をつくって、動物本来の動きを出せる施設づくりや工夫をするのが、大切だと思います。

熱帯の湿地にくらす動物たちの世界を再現した施設、ウェットランド。こちらは動かない鳥、ハシビロコウ

タッキー: なるほど。そして、絶滅危惧種の保護や繁殖も同時に行ない、人に伝えていくわけですね。

ぶちさん: そうですね。今回ご覧になったライチョウのように、希少動物の保全と繁殖を担うという大きな役割があります。

タッキー:今日はありがとうございました!

王国のキャラクターグッズが並ぶ、ショップでのお買い物も、楽しみのひとつ

那須どうぶつ王国は、動物たちが幸せに暮らせる飼育環境を整え、お客さんにも楽しんでもらえる工夫が随所にみられます。そして、動物と間近にふれあいながら、希少動物の保全の大切さに、思いを馳せることができるのだと分かりました。ぜひ、那須どうぶつ王国に行ってみてくださいね!

【那須どうぶつ王国】
場所:栃木県那須郡那須町大島1042-1
連絡先:0287-77-1110
営業時間と定休日は季節・曜日によって異なりますのでHPよりご確認ください。
HP:https://www.nasu-oukoku.com/

この記事を書いた人

タッキー

那須コーヒーパルキ店主。さいたま市出身。 2016年那須町に移住。自家焙煎のコーヒー店を営業し、那須を取材する圏外ライターとしても活動。那須のフリーマガジン「森の子」の企画・編集。森での自給的暮らし、音楽活動、登山など。

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